東京高等裁判所 昭和31年(う)2769号 判決
被告人 平田一男 外三名
〔抄 録〕
控訴趣意第一に対する判断。
記録を調べてみると、本件起訴状記載の公訴事実第二として、「被告人等は外数名と共謀の上東京方面から西那須野町に米の買出しに来る闇屋の搬出量を制限し、その制限量を超過して搬出した者からは、制裁として罰金名下に金員を喝取しようと企て、昭和三〇月八月下旬頃の日不詳午後八時三〇分頃から那須郡西那須野町扇町一番地江田武司方において闇屋仲間の会合を催した際、前記制限に違反したことの明らかな、東京方面の闇屋望月ウラ外八名位を前記会合に呼集めて同席させ、右望月等が前記制限を超過して多量に搬出したことにつきその不都合を責めた上「闇屋同志の間で申合せた闇米搬出量の制限に違反した者からは、制裁として罰金をとる、若し払わないならば西那須野町から米を持出させない、汽車に乗せない」等と通告して、同人等をして罰金を出さなければ妨害されて汽車にも乗れず、闇米の買出しが出来なくなつて、如何なる不利益を受けるかも知れないと畏怖させ、因つて罰金名下に各人三百円宛払うことを承認させ、その頃西那須野町一番地被告人辻野義夫方において前記望月ウラ外八名から戸井田鉄夫、渡辺要等の手を経て、現金二千七百円の交付を受けてこれを喝取したものである」と記載されていて、右恐喝の被害者としては一括して「望月ウラ外八名」と表示され、その「外八名」の氏名が書かれてないことは所論のとおりである。ところで、右訴因は被告人等が同一の日時場所において望月ウラ外八名位の特定人に対して同一の恐喝手段を施こし畏怖の念を生ぜしめて望月ウラ外八名から各人金三百円づつ現金合計二千七百円の交付を受けてこれを喝取した事実を掲げているのであつて、「外八名」はいずれも右恐喝された同席者の中の者であるからこれまた特定人であるということができるので、たとえ、その氏名が明示されてないとしても、訴因の示し方としては簡略に失したうらみはあるが、特定された日時場所、単一の恐喝手段、一定の出金額などと相俟つて、全体として一の訴因をなし、他の訴因と識別しうる程度に示されているのであるから、右訴因は特定しているといわなければならない。なお原公判において検察官の証拠提出により明らかにされたところによれば、右「外八名」とは、河野フサ、高橋ナミ子、中村ハル、石川ツマ、山岸しず、蓮沼カネヨ、杉野文子及び高梨コウを指すものであることは、河野フサの原審証言(ただし罰金三百円を渡した相手が「豊田」とあるは「戸井田」の誤記と認められる)及びその余の七名の各被害届及び供述調書によつて確認せられるところであつて、所論被害者と称する一〇名のうち、遅沢キヨは公訴事実第二の二の関係であるから除外せらるべく、かえつてその中には、高梨コウが抜けているとみられるので、これを遅沢キヨと差し換えると都合一〇名になるが、そのうち土屋ヌイについては、被害届のないこと、同人は所論訴因にある江田方の会合に同席しなかつたとみられること、及び金二百円を戸井田に託したと認むべき跡のないことからみて、検察官は同人を被害者となさず、「外八名」のうちに加えてはいないとみられるので、結局「外八名」は前説示のごとく原審公判の審理過程において明確にされたのであるから、この点について原審はあえて検察官に対して釈明する要がなかつたものというべく、被告人側からもこの点に関し、何等の要求または異議を申し出でた形跡も見当らない。しからば、所論のごとく公訴事実の記載がそのうちに「望月ウラ外八名」とあるが故に訴因として特定を欠き、刑事訴訟法第二五六条第三項の要件を具備せず、この分については公訴なきものではなく、また同法第三三八条第四項の公訴提起の手続がその規定に違反したため無効のものでもなく、はたまた、原審が公判審理に当つてこの点につき検察官の釈明を求めて訴因の弁護人主張のような特定をしないで審判したとて、不法に公訴を受理し、または審判の請求を受けない事件につき判決したというがごとき違法が存するものではない。それで所論はいずれも排斥せらるべく、論旨はすべて理由なきものである。
(中野 尾後貫 堀真)